他と同じじゃつまらないから
たとえ失敗したとしても
外から見ればそれがオリジナルになる
栗原市のとある山道をドライブしていると、突然別世界を思わせる素敵な建物が目に入って来る。そこは昨年11月にオープンしたカフェなのだが、以前ご紹介したので読者の皆さんの中にはすでに愛犬と一緒に訪れたことがある人もいるのではないだろうか。まだの人はぜひこの機会に足を運んで見て欲しい。この別世界のような場所にある『cafe TAKAMO』にはドッグランが併設されており、カフェの利用者は無料で遊ばせることができるようになっている。カフェの中には愛犬と一緒に入ることはできないが、テラス席と、ドッグランを挟んで反対側にあるトレーラーハウスの中は一緒に過ごすことが可能だ。(→以前の記事はこちら)
その取材でお邪魔した時に、ドッグランをはじめ、敷地内の石畳、アーチ、看板、ディスプレイなどの装飾をDIYが得意な専務がこつこつと1年をかけて一人で造り上げたと聞いた。それだけではない。カフェやトレーラーハウスの内装や外装、テーブルや棚などの什器に至るまで全てほぼ一人で造り上げてしまったそうなのだ。そのことを当時の記事で軽く触れているのだが、それを読んだ読者からの反響が大きく、その出来栄えの良さに驚きの声がARCHE!にも多数寄せられていた。
今回はあれから少し時間が経ってしまったが、どこを撮っても素敵な絵になる『cafe TAKAMO』を一人で造ってしまったという専務、大場琢磨さんにお話を伺った。
約束の時間に『cafe TAKAMO』へ伺うとスラっとした長身の男性が現れた。この方が大場琢磨さん。以前は専務とお聞きしていたが、実は『cafe TAKAMO』を始め、敷地内にあるオートモービル高森や天然温泉たかもりの湯などのオーナーであることが判明。創業者である琢磨さんの父親から会社を引き継いていたようだ。さっそく本当にこの辺り一帯を一人で造り上げたのかご本人に確かめてみると、建物の内装も外装も看板も地面も庭さえも、そしてドッグランまでも、あらゆる物をひとりで造ったということが判明した。思っていた以上に広範囲。「時々は専門の業者さんに入ってもらったり、社員に手伝ってもらったりした」ということだが、基本ひとりでコツコツやっていたようだ。「真夏は地獄だった。もうやりたくない。」そう話す琢磨さんを見ていると、大変失礼ではあるが〝オーナー?〟と疑問符が湧いてくる。
そもそもカフェは、奥にあるオートモービル高森に来た人が、整備や修理などを待つ間ゆっくりとくつろげる場所を提供できるようにと計画されたものだった。そのカフェを琢磨さんが自分で造ることになったのは、どうやら自然の流れだったようだ。
大の車好きで、自分で愛車に手を加えたりもしてるという琢磨さん。その大切な愛車をどこにでもあるような普通のガレージではなく、思い描くオシャレな空間に置きたくて自分で造ったのがDIYの始まりだった。特に学校で建築的なことを習ったわけではない。しいて言えば、DIYの基礎的な技術は学校を卒業後に勤めた職場で習得したと言っていた。あとは独学や知り合いからのアドバイスを受け、それを吸収しながら腕を磨いていったようだ。
最初はカフェだけ造るはずだったのだが、琢磨さんのお姉さんから、この辺りには犬を自由に遊ばせることができる場所がないから、カフェと一緒にドッグランを造ったら多くの人から喜んでもらえるのではないかと提案された。それが2年ほど前の事である。それまで琢磨さんはガレージの他にもいろいろと製作をしており、自宅の庭さえも自分で木や花を植え装飾を施して造っている。そんな経験をもつ琢磨さんは、このカフェを造るということは「今までやってきたことの延長線上にある」のだから何の不安もなかった。むしろ当然のように自ら作業をすることを受け入れた。ただ犬を飼ったことがない琢磨さんはドッグランを造るにあたっては庭を囲うだけではなく、ドッグランの持つ機能や役割、工夫が必要な点などを研究しなければならないと考た。そこで様々なドッグランに足を運んだ結果「どこも四角いのドッグランばかりでつまらない」と思ったそうだ。言われてみれば確かにサイズの違いはあるが大体のドッグランは四角い。それが当たり前すぎて何も思ったことはなかったが、琢磨さんの「つまらない」という発想が面白いと思った。そして「もしかしていろいろな所に連れて行っても四角いドッグランは犬にとってどこも同じなのか?」とさえ思えてきた。
他と同じじゃつまらないから全てオリジナルの物を造っていきたかったという琢磨さん。ドッグランはわざとカギ型にし、ポイントで中に木を植えてみた。周りも普通にフェンスで囲うだけではなく柱部分に枕木を利用し、その枕木もわざと高さを変えて、ライトアップされるドッグランを想像しながらそれぞれに照明も取り付けた。ドッグランの入口付近には石の床に別の石をはめ込んで作った犬の足跡がある。「結構石を切って作るのが大変で、一つだけ作ってあとはやめちゃいました」というこの足あとは、「隠れミッキー」のようで見つけるとなんだかとても嬉しくなる。他にも琢磨さんの誕生日が何気なくペイントされていたり、知人からもらったというスケートボードの板が看板になっていたりと細かなところまで遊び心とセンスの良さが光っていて屋外の放たれた自由な空間がイキイキと表現されている。逆にメインであるカフェはとても落ち着いた雰囲気で暖かな光がゆっくりとくつろげる空間を演出している。
全てにおいて感情に触れる造作がされており、まるでディズニーランドに来たかのようなわくわくが止まらない。あちらこちらに面白いアイディアが詰め込まれていて、たぶん一度来ただけではこの面白さを全部発見することは難しいのではないだろうか。
「思っていた通りにならず失敗した所もいろいろとありますよ」そう言ってはいたが、失敗を感じる場所は一つもない。そしてそれを検証する図面もない。そう、なんと図面がないのだ!これだけの物を造っているのに図面がないと聞かされて耳を疑った。全ての構想は琢磨さんの頭の中。しかも実際に手を動かしながら頭の中で次を描いていくのだから、他の人が作業を手伝いたくても琢磨さんの指示なしでは何もできない。誰も完成予想図はわからないのだ。工程表も作れないから本当にオープンまでに間に合うかどうかもわからない。そんな状況で準備期間として設けられた一年間は本人以外(いや、もしかすると琢磨さん自身も)不安だったのではないだろうか。
スーパーGTのレーサーになるのが夢だったという琢磨さん。その夢は果たせなかったが、大好きなスポーツカーを介して異業種のいろいろな人たちとの繋がりをもっている。今回この『cafe TAKAMO』を造り上げる中で、親交を深めているその人たちからもたくさんのヒントや協力をしてもらったそうだ。だからほぼひとりで作業はしていたが、一人でできたわけではないと感謝していた。
今回の取材に伺ったときは小屋を製作中だった。実際にカフェやドッグランを利用する人を見て新たなアイディアが浮かんだそうで、ひとりで奥にある自動車整備工場の近くで黙々と造っていた。これが完成したらまた次の何かを製作する気なのではないだろうか。
我々に製作中の小屋を見せてくれながら「完成したらどうやってドッグランまで運ぼうかなぁ」そう言っていた琢磨さんの言葉が忘れられない。(取材:NAOKO・撮影:編集部)
cafe TAKAMO オーナー 大場琢磨
昭和52年1月20日生まれのB型。栗原市出身。
現在はcafe TAKAMOを始め、敷地内にあるオートモービル高森、天然温泉たかもりの湯など関連会社のオーナー。大の車好きで、若い時の夢はスーパーGTのカーレーサー。現在もスポーツカーを愛車に持ち、その車を介して各方面の人と交流し人脈を広げている。