こんな衝撃的な描写の絵を見たことがなかった。目力が強く、こちらが見透かされているような猫の絵。どんな人が描いているのだろう。経験深い画家さん?何歳ぐらいの人?どんな手法で描いているの?いろいろ知りたくなってネットで調べた。
 画家の名は音海(おとみ)はるさん。ぜひ小誌に登場していただけたらなあと思っていたら、偶然にも白石市で「音海はる色鉛筆画展」が開かれることを知った。さっそく足を運ぶと、そこには「これ写真じゃないの?!」と思う超写実的な作品の数々が。
 あの目力の猫もいる。犬も。目を凝らすと毛の一本一本まで見える。これがすべて色鉛筆で描かれたのか。細を穿つ音海はるの世界。作者の人間像とは。ぜひ会ってみたい。そしてこの夏、念願叶い山形市の彼のアトリエでお会いできることになった。


 音海はるさんは全国で活躍する山形市在住の色鉛筆画家。訪れたのは閑静な住宅街にある音海さんのご自宅。なんと思っていたよりずっとお若い方だった! 2001年1月生まれの23歳。スラっとしたカッコイイ青年である。てっきり猫を飼っているものと思いきや、愛犬オレオくんと出迎えてくれた。オレオくんは人懐こい黒豆柴。満面の笑顔だ。


 実は音海さんは猫アレルギーとのこと。猫の絵を描く時は、一回会ってじっくり見るか、写真を撮ってそれを参考にするそうだ。2階にある彼のアトリエに入ると、どこか懐かしい、まるで若い頃の自分の部屋に帰ってきたような感覚にとらわれた。
 ただ違うのは、ここには色とりどりの色鉛筆が机上に並び、整然として、棚には黒光りの昆虫のフィギュアが愛おしそうに飾ってある。ああ、この空間で、この色鉛筆で描いているのだな、と思うと、時間も忘れ一心に紙に向かう音海さんの姿が目に浮かぶようで、不思譲と彼に共感めいた親近感を覚えたのだった。

 「色鉛筆をはじめたのは高校生の時でした 。その時は夢中になっていろいろな動物の絵を描いていました。でもうまく描こうとばかり考えるようになってしまったんです。それでいろいろな作家さんと話したり、いろいろ悩んでるうちに”楽しんで描いてみる”ということに気づかされ、うまくなくてもいいから、楽しむことを一番大切にしました。
 そうしたら、一つ一つ描くことが喜びになり、ちょっと満足できなくても受け入れることができたんですね。そのことが絵を描き続ける力になったんだと思います」
 大学受験は福祉の道に進むか美術の道に進むか 、かなり迷ったとのこと 。ご両親をはじめ周りの人たからは福祉の道を進められたけれど 、どうしても絵を描くことと 、本格的 に絵を学んでみたいこともあり 、美術が学べる仙台の大学に入学した 。「 大学に入ってからは本格的に勉強して描くことを学びました 。色鉛筆は独学でしたが 、絵を描く仲間が多かったので 、とても刺激があり勉強になりました」

☆☆作品を描く時に何を大切にしているのでしょうか?☆☆

「二つあります 。 一つは瞳を始めに 描くことです 。特に 動物の瞳は生きている証みたいなところがあり、どんなところを見ているのか、瞳に何が写っているのかを考えて描いています。そして瞳を描くことは一番大切なので、体力がなくなる前に絶対描いています。
 もう ーつは色鉛筆は修正がきかないので 、満足できない時は90%完成していたとしても 、最後の10%が失敗だったらまた 一から描きなおします。これが 大変なんです」
 一枚の絵を描きあげるにはかなりの体力が必要で 、数日はかかるとのことだ 。

モデル/猫カフェ PuchiMarry仙台店の猫ちゃん

☆☆なぜ猫の絵を描くことが多いのですか?☆☆

「 猫は瞳も素敵なんですが毛並特にひげを表現するのが楽しいですね。ちょっとだけ 、ひげは強調して描ているんです」
 上の作品をもう一度じっくり見てもらいたい 。今にも動きそうな臨場感が伝わってくるのではないだろうか。筆者は猫の写真を撮ることもあるけれど 、とても撮影は難しくカメラ目線などは絶対にくれな い。犬は名前を呼ぶと何となくこち らを見てくれる 。彼の作品の猫を見ると「こんな 表情がほしい」と心底思う。

「呼ぶ」 モデル/まつたけちゃん X

「おいしそう」モデル/とろろちゃん Instagram


 昨今 、スマ ホカメラ の性能で誰もが簡単にいい感じの写真が撮れる。しかし音海さんの絵には写真では表現しきれないものがあような 気がする 。リ アルに 描くことはいかに現実に近づこうかとすることでなく 、それを超えたもの 、その作品だけが持つ独自の時間と空間 、新たな扉を開く自由な発想の契機を与えるもの・・そのような価値を持っているのではないかと、音海さんの絵を見ながら感じた。

☆☆これからの活動について教えてください!☆☆

「いろいろな色鉛筆画に挑戦していきたいですね 。もちろん動物は描いていきます 。犬の絵も描いているんですよ」見せてくださったのは愛犬オレオ くんの作品だ 。表情豊かに 描かれている 。愛情が溢れ出しているようだ 。
 これから犬の絵にも力を入れていきたいということで、読者の皆さんに大事なわが子描いてもらいたいという方がいれば、ぜひいかがだろう。一生の記念になること間違いなしだ。

ARCHE!26号の表紙です

 音海はるさんは地元の山形が好きで 、都会で活動するということは考えていないそうだ 。自然豊かな山形の地から全国のファンに素晴らしい色鉛筆画を届けていくのだろう 。
「仙台も学生時代に過ごした場所なので 、とても好きです 。仙台で個展を開いてみようと思っています」その時は編集部も全力で応援する ことを約束し 、また会える日を楽しみにアトリエを後にした 。

【音海はる】アーティスト/色鉛筆画家
おとみはる。2001年生まれ。山形市出身。本名、工藤陽輝。高校2年生の頃に色鉛筆画に出会 い、主に犬や猫などの動物を得意としている。今にも動き出しそうなリアルな空気感と臨場感に溢れた作品は「写真を超えた」と話題に。地元山形を拠点にメディアヘの出演や書籍の出版、個展やイベント開催など幅広く活躍中。今月号の表紙は愛犬オレオくんを描いた作品。
音海はるX 音海はるInstagram

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