誰もがやらなかった、この分野で僕は商売を始めようとしている。

文/渡 梓  撮影/松元孝憲,編集部  ロケ地/さかがみ家

ペットマガジンARCHE! N°12(2022.9.25発行)の「愛ある生活を求めて -坂上忍さん-」の記事に全国の方々から『雑誌どこにありますか?』という問い合わせが数多くありました。雑誌は宮城県内しか置いていません。また、好評の号で在庫も僅少となりました。今回の記事は坂上忍さんのご了解を得てホームページ上に掲載いたしました。また、雑誌掲載時の様子をご覧になりたい方はこちらのPDFページを。
みなさんのご感想をコメント欄にいただきましたら幸いです。

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今年4月1日に8年間務めた昼の情報番組「バイキング」を卒業後、休む間もなく4月4日に動物保護ハウス「さかがみ家」を開業。千葉県の海沿いの街に約4500坪の広大な敷地を私財で購入し、保護ハウスを建設。青々とした芝生のドッグラン、その広さは約2千平方メートルにも及ぶ。さまざまな事情で育児放棄された犬猫たちを引き取り、もう一度人間と共に暮らしていく為の心身のケアを経て、里親の元へ渡るまでの全てのお世話を担う。

8月某日「さかがみ家」へ伺い、施設見学と坂上忍さんとの対面インタビューが叶うこととなった。到着してまず一番驚いた事は、スタッフのほとんどの方が施設内を靴下で移動していた事だ。
もちろん、我々来客者にはスリッパを出してくださったのだが、筆者もいつの間にかスリッパを脱ぎ、気付けば靴下になってまわらせて頂いていた。何が言いたいかと言うと、そのくらい床が綺麗だと言う事だ。二階の猫舎から、ケージ部屋、庭のドッグランまで靴下で移動して夢中で取材をしたのだが、白色の靴下の裏には一切汚れが付いていなかった。そのレベルの綺麗さだ。
現在約15匹の犬猫を保護している「さかがみ家」(取材時)。常時そのくらいの動物達と暮らしていたら少なからず動物特有のにおいがするのは仕方ないはずなのだが、取材中一瞬たりともその類のにおいを感じる事がなかった。
日頃からの徹底された施設管理を随所で感じながら一階に戻ると、自宅のリビングでいつも画面を通して見ていた坂上忍さんが、ドッグランを眺めながらテーブルに付いていた。

──施設を見学させて頂いて、犬用ケージが全て木製でできていたり、猫舎のアスレチックが室内と室外にあったりと、随所に工夫された様子が伺えます。施設を建設するに当たり坂上さんが一番熟考されたところはどこでしょうか?

「僕自体が出物はれものがあまり好きじゃないので、ケージに関しても壁に埋め込みにしたり、とにかく掃除がしやすいようにしました。あとはお世話するスタッフさんの泊まり部屋を作ったり、キッチンを人間用と動物用で分けたりもしました。施設の設備どうこうというよりは、この施設の空気を作っている人間達がせかせかわちゃわちゃしないようにと言っています。
スタッフさんには、時間を作って動物達とお昼寝してください、それも仕事のうちです─と。僕が保護ハウス名を『さかがみ家』にしたのは、動物達が、おうちでのんびり過ごしているような空間を作りたかったからです。
動物の保護活動はもちろん良い活動ではあるんだけど、保護活動をしているからといって暑苦しくならないように─と、よく話しています。押し付けがましくならないようにと。
地域の方々との連携についても、まずは自分達が、人間はみな動物が好き、という前提でやらない事。動物が苦手な人がいるのは当たり前なことで、そんな方達にどうやって迷惑をかけずにやっていくかというのも一つの課題です」

フジテレビ「坂上どうぶつ王国」(毎週金曜夜7時〜)では番組内密着取材コーナーにて、さかがみ家に起こるさまざまな様子が随時放映されている。開業と同時に開設されたYouTubeチャンネル「さかがみ家のチャンネル」では、施設で暮らす犬猫達の様子、新しく保護された子達の最新情報をいち早く知ることができる。
7月末の特別番組では、さかがみ家として初の譲渡会参加の様子が放送された。犬猫達を綺麗にして譲渡会に連れて行き、里親希望者さんを条件で判断し、この子はいい子ですよ、飼いやすいですよと勧めながら、なんだか商売をしているようだと心を痛めるさかがみ家メンバーの様子に、心の葛藤が見て取れた。

──譲渡会初参加の様子をテレビで拝見しました。譲渡会参加について、今現在、どのような心の落とし所と言いますか、心持ちでいらっしゃいますか?

「譲渡会というものについては正解がなく、いろんな考えがあって当然。ある程度のルールもあり、犬猫の行き先を見つけるという目的の為には綺麗事だけではいかない部分も多くあり、もう行きたくないというスタッフも中にはいました。
けれどそのままでは単なるわがままになってしまうので、ではどうしたら行きたくなる譲渡会に自分達がしていけるのか、条件だけで保護動物を迎えられない方へどんな事ができるのかをその都度話し合い、対話する時間を持っています。
スタッフさんの中には親子ほどの年齢差がある子も多くいるけれど、しっかりとした専門知識を持っている子もいるし、連携は取れていると思います」

──坂上さんは、ご自身でもたくさんのワンちゃんネコちゃんをご家族に迎えていますが、生まれつき疾患を抱えた子や、ペットショップで売れ残った子達を積極的に迎えているように見受けられます。
そのような子達を見つけた時に何か心が動くような、通じるようなものがあったりするのですか?

「う~ん。通じるものがあるかというか、一生通じ合わなくてもいいと思っていますね。
こういうのは持ち回りだと思っていて、さかがみ家でもはじめの一年はお世話になっている保護団体さんの下請けでやろうと決めて、まぁ、言ってみればいきなり上級者向け(保護の難易度が高い)の子達ではなく、疾患についても重度の子ではない子達から保護して勉強していこうと。まずは自分達の身の丈にあったお世話をして、徐々にスキルを上げていけたらと思っています。
その中で、たとえば保護団体さんに引き取りに行った時に、パッと見て手のかからない子は里親も見つかりやすい。それじゃあ、この中で決まらなそうな子はどの子ですかと聞いて、じゃあうちで引き受けようと。そんな子達とも一緒に暮らしていけば徐々にお互いの事がわかってきて、気づけば自然に過ごせるようになってくる。
そう言った意味では引き取れば引き取るほど、こちらから通じ合いたいだとか、懐いて欲しいだとか、何かを求める事はどんどん減っていきますね」

動物保護ハウス「さかがみ家」は開業当初から寄付金やクラウドファンディングなどは一切募らず、保護活動を持続可能な職業として確立することを目指している。施設の建設費や事業が軌道に乗るまでにかかる資金はすべて坂上さんの私財持ち出しで補填されており、今のところ開業してから数ヶ月で赤字は数千万円にも上るという。
その一方で、坂上忍さんという有名人が一念発起して始めた事業ともあり注目度はとても高く、さまざまなプランで収益を得て事業を回していく計画が水面化で進行しているようだ。
保護活動を職業として確立させる─その為なら、「タレント・坂上忍」の知名度を利用する事も厭わないと話し、その言葉からは静かな覚悟が感じ取れた。

「保護活動って、良い事をやってるはずなのになんだか綺麗事だったり、寄付に頼って成り立ってる部分が多くあり過ぎるなって。寄付やボランティアに頼るという事はそれだけ不安定なものになっちゃう。そういう事例を目の当たりにするうちに、じゃあ自分に何ができるだろうって考えて。
自分のできる範囲で、何か変えていけたらなと。ビジネスって、やっぱり綺麗事じゃできないですよね。社員さんの生活を守らなきゃいけない。自分達が還元できるものと得るもののバランスを考えなきゃいけない。その上で、動物達相手なんだから潰すことは絶対できない。なので、凄いことをやってるねと言われるくらいなら、『誰も手を付けなかった業界で商売を始めた』、そう言われた方がしっくりくるかなって思います」

インタビューが終わる頃には、取材を通して一貫して感じていた緊張感の正体が少し分かった気がした。私は少し勘違いをしていたのかもしれない。いくら大変だとは言っても、動物好きが動物を世話するのだから、なんだかもっと麗かで楽しい日常ばかりなのかと勝手に想像していたのだ。けれど、施設に坂上さんが現れた時のスタッフさん全員の緊張感、徹底された管理、細かく注意書きが貼られた壁。ここにいる全員が仕事をしに来ているのだと、肌で感じた。
何より、坂上さんは『こうなったら良いなぁ』と言った類の理想論は全く話してくれない。さかがみ家の事業や、別事業で行なっている未来ある子役の育成について、根本には革命や教育があるのかと尋ねたら鼻で笑われてしまった。「そんなご期待には添えません(笑)」と。
どこまでも現実主義であるからこそ、ボランティア精神に頼らざるを得ない現在の動物保護業界に、鋭くメスを入れる事ができるのではないか。

文太くん

ところで、これだけ商売・商売と書いたあとで何だが、さかがみ家で暮らすワンコ達の瞳を見てほしい。撮り下ろした写真が送られてきた時、文章なんていらないんじゃないかと思ったほどだ。とてもリラックスした様子で、みんな自信に満ちた笑顔だった。また人間を信じてくれてありがとう、とつい言いたくなる。

善意から動物を助けたいという心はもちろん素晴らしい。しかし、動物のお世話は「気が向いた時だけ、できる範囲で」と言ったようなものではない。お世話する側の不安定さに動物達を巻き込んでしまった結果、さまざまな惨状も多くあるというのが現実である。
だからこそ、「継続可能な事業として成り立たせる」という理念には、坂上さんが意地でも守ろうとしているものへの覚悟を、勝手ながら感じたのだ。今、日本の動物保護業界に新しい風が吹こうとしている。

──今後、坂上さんがこの活動を通して、東北地方に訪れる未来はありますか?(期待を込めて…)

「ギャラをくれればどこへでも(笑)」

──アルシュ読者の皆さんへひとことお願いします!

「バイキングをやっていた時、プロデューサーさんに何とか年イチでも良いから東北に行きたいと言って、5年間くらい毎年行くことができました。最近になってようやく気楽にと言いますか、気軽に行く事ができるようになったけれど、こんなに時間がかかるものなんだと痛感しました。僕も母が山形の人間なので、当然東北が好きですし、これからも自分のできる範囲で関わっていけたらと思っています」

坂上忍さん、さかがみ家スタッフの皆さま、お昼寝中だったワンちゃんネコちゃん。本日は本当にありがとうございました。(渡 梓)


azufeeling

1989年生まれ長野県出身。両親の影響で幼少期より洋楽を聴きピアノやドラムなど楽器に触れる。15歳でボーカルに転身、自ら作詞作曲を手がける。2016年:映画の主題歌を含むファーストアルバムでメジャーデビュー(AZUSA WATARI名義)。2018年:単身渡欧。語学を学びながら各地のアーティストとの交流を通じ制作活動に邁進。2019年秋 アーティストネームを渡梓(AZUSA WATARI)からazufeelingに改名。
web… https://linktr.ee/azufeeling
楽曲… https://music.apple.com/jp/artist/azufeeling/1484307116

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