「動物のことより人のこと」
はたしてこの考えは正しいのだろうか
9月某日、仙台市内の会議室で「#動物はものじゃない 命の授業」が行われた。この「命」は我々人間の事ではなく、時として人間のわがままに振り回されるペット、動物たちのことを指す。
講師は動物愛護議連事務局次長の串田誠一さんだ。この「動物愛護議連」というのは政党の垣根を越えた超党派の議員連盟であり動物殺処分ゼロを目指して活動している。その中にいる串田さんは現職の参議院議員であり、各委員会などでも常に動物愛護に関する問題提起をし、行政の在り方、憲法の改正などを訴えている。
串田さんは法政大学法学部法律学科を卒業し、司法試験に合格後弁護士となった法律の専門家だ。その法律の専門家が納得のいかない法律や時代にそぐわない法律がたくさんあることに直面し、これらの法律をどうやったら変えていけるのだろうかと考えたのがきっかけで政治家を目指すこととなった。特に動物に関する法律は、明治に作られた民法のままで現代ではありえないことがそのまま運用されている。子供の頃に見たサーカスの象がとても悲しそうな目をしながら芸をさせられていたことが忘れられなかった串田さんは、動物が「物」扱いされていることを変えていかなければならないという強い思いで政治家の道を選んだ。だがその政治家となるまでの道のりは順風満帆ではなかったようだ。
2003年人生初の選挙戦、地元神奈川の県議選に出馬したが落選。法政大学大学院教授を経て2016年参議院議員選挙に出馬したがこちらも落選した。翌2017年今度は衆議院議員選挙に出馬したがまたもや落選。しかしこの時比例代表として復活当選を果たす。2021年衆議院議員選挙では再び落選し、2022年、日本維新の会公認として参議院議員選の比例区に当選し現在に至る。本人には大変失礼だが、どうしてこんなに落選しても政治家を諦めなかったのか。当選するために戦い方を変えるということもできたはずなのに、なぜ一貫して動物保護を強く訴えたのか。数々の疑問が湧いてきたが、その答えは「命の授業」の中に見つけることができた。
「命の授業」を行う会場には、実際に保護活動をしている人や、なんらかの形で動物に接している人たちの他、小学生のお子さんを連れた親子が何組か来ていた。
来年2025年の「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」の法改正を目指して様々な問題提起を国会でもしているという話を、映像を交えながら優しい口調で話す串田さんは、政治家の先生ではなく、小学校の先生のようで、きっと来ていた子供たちの耳にも届きやすかったことだろう。
法律を変える必要があることを示すために、名古屋で起きたコインパーキングに停められた車の中に2匹の犬が取り残されていたという事例を話してくれた。その日は6月。名古屋の6月と言えば、夏日となることもあるだろう。車の中はかなりの高温になることが予想され、集まってきた住人が車の外からサンシェードを被せて犬をとても心配していた。そこに駆け付けた警察官が車のカギが開いてることを確認。だが勝手にドアを開けて犬を助け出すことは所有権の問題があるためできなかったという話をもとに、現在の「ペット=物」とする民法の問題に触れた。そして最終的には警察が「警察官職務執行法」という法律に基づき行動したことで犬の命が助かったのだが、この救出に4時間もかかったことについて法律の解釈の問題などを指摘した。
そして串田さんの授業はペットとしての動物だけではなく、食用に飼育されている家畜についてまで及んだ。
皆さんは「アニマルウェルフェア」という言葉をご存じだろうか。ペットを飼っていればそのペットが今何を思っているか、だいたいは読み取ることができるだろう。それはペットにも感情があるという裏付けで、この感情は家畜として飼育されている動物たちも同じように持っている。その家畜に心を寄り添わせ、ストレスを少なくし、行動要求を満たす健康的な飼育方法を目指す畜産のあり方を「アニマルウェルフェア」という。串田さんによると日本は世界に比べ、このアニマルウェルフェアがかなり遅れているそうだ。世界中で動物保護活動を行う世界動物保護協会(WAP)が発表した2020年の「動物保護指数ランキング」では、日本はGランクという最下位になっている。これは法整備がされていないことと我々消費者の関心が低いことが原因のようだ。「命の授業」では動物保護の観点から世界の中の日本の状況を話した上で、ここでは書くこともはばかれる残酷な畜産の現状を教えてくれた。もちろん、全ての畜産農家で行われていることではないと思うが、消費している我々には知らない事ばかりだった。
動物愛護に関する授業をする串田さんが最後に政治家として有権者の声を教えてくれた。
「動物より人だろう!」
動物の保護をしているよりもまずは自分たちの生活を豊かにするのが政治家だろう、という声があるということだ。確かに国民が潤っていなければ、動物たちに愛を与える余裕などないだろう。だが串田さんは言う。「世界は動き出している」自給率が低く、飼料のほとんどを輸入に頼っている日本の畜産が、動物保護ランキングで最下位をとっている国として外国から相手にされなくなれば、それは畜産だけの問題では済まなくなる。海外の投資家からは日本は魅力のない国として相手にされなくなり、その先にある国民の貧困に繋がっていく。
まさか動物愛護の行動が、巡り巡って国民の貧富に関わってくるとは思っていなかったが、政治家である串田さんが一生懸命全国を回りこの「命の授業」を続けている理由のひとつとして納得することができた。
最後に串田さんはこう話してくれた。「皆さんはご自宅で飼われているペットを通じて、日頃から動物たちの事を考えていることと思います。今の日本の動物に対する考え方をすぐに変えるのはとても難しいことですが、ひとりひとりの力が集まればきっと変えていけると思います。皆さんぜひ一緒に頑張りましょう!」
動物が「物」ではなく命ある生き物としてその存在を法的にも認められるまで、串田さんは覚悟をもって日本全国を走り回り「命の授業」を続けて行くのだろう。
動物愛護議連事務局次長 串田 誠一さん
1958年生まれ 東京都大田区出身 参議院議員
犬猫殺処分ゼロ議連事務局次長
アニマルウェルフェア議連副会長を兼務
子供の頃に見たサーカスの象の目が忘れられず、動物保護に関する活動を続けている。趣味は訪問先で時間を忘れるほど動物たちとふれあうこと。弁護士、法政大学大学院教授、小説家、漫画の原作者としての経歴を持つ。