人としてかっこ悪い生き方はしたくない
根底にあるその思いが自分を頑張らせてくれている
今回は以前本誌で紹介した仙台市若林区荒浜にある「Gaden Kitchin 海と風」のオーナー、佐藤正之さんに話を伺った。
「海と風」はその広大な敷地に垣根で区切られたBBQサイトが37ブースもあり、愛犬と一緒に来ても気兼ねなく楽しめると好評だ。さらにコテージ付きのBBQテラスもありファミリーや友人たちと、また仕事仲間と一緒に楽しい時間が過ごせるようになっている。一方ランチやカフェタイムなど、BBQ以外でも気軽に利用することができるカフェも併設されており、読者の中にはそのテラス席を愛犬と利用したことがあるという人も多いのではないだろうか。2024年4月のオープンから3年目となった「Gaden Kitchin 海と風」。荒浜にあるこの施設は震災復興のために尽力したオーナーの、仕事と趣味、そして未来への希望から生まれたものだった。


昭和27年生まれで4月の誕生日を迎え74歳となった佐藤正之さん。現在大崎市となっている鹿島台町出身で、東北学院大学法学部を卒業後、仙台の会社に就職した。生まれてから今まで一度も宮城を離れたことがないという生粋の宮城人だ。
大学一年生の頃、佐藤さんの父親が勤める会社が倒産した。長男であった佐藤さんは家を支えなければならないと考え大学卒業後、初任給72000円の包材メーカーへ就職。夢を持つことを自ら絶ち、梱包材の設計をする仕事に就いた。一方佐藤さんの父親は東京に本社を置く黒沢建設工業へ再就職し、その働きぶりが評価されて東北支社の支店長を任されるまでになっていった。しかしその後黒沢建設工業が倒産。愛社精神の強かった父親はその会社から独立という意味を込めて社名を預かり「東北黒沢建設工業株式会社」を立ち上げた。主な仕事は建造物解体や産業廃棄物の処分、建物を壊さずに移動する曳家工事や土木建築工事の請負などをする。
数年後、佐藤さんは父親が経営する東北黒沢建設工業株式会社へ転職。包材メーカーと建設業、全く畑違いの世界へ飛び込んだ佐藤さんは、建築用語を覚えるところからのスタートだった。社内でも現場でも当たり前のように飛び交う言葉は当初はまるで異国語のように聞こえたが、それを書きとめ後で調べるということを繰り返しながら、身に着けていったそうだ。そうこうしているうちに不況の波が押し寄せてきた。どこもかしこも倒産するような大変な時期だったが東北黒沢建設工業はなんとか踏ん張った。佐藤さんは社長である父親のことを「精神力が強い人」と表現した。父親は第2次世界大戦に出征し6年もの間毎日生か死かという日々を送り、さらに終戦後はシベリアに抑留され捕虜となって過酷な強制労働を強いられた。そんな耐え難い経験を乗り越えてきた父親は芯が通った揺るぎのない人だった。大変な時こそどっしりと構え、決してぶれないその姿は佐藤さんにとって誇りそのものだった。そしてその父親を通して「社会が強い人間を育てるのだ」と実感した。

2011年3月11日。巨大地震が発生。その日の夜、仙台市若林区にあった東北黒沢建設工業に、仙台市環境局から家屋の撤去、道路の啓開(※けいかい=災害で道路が塞がれたときに、通行できるように障害物を取り除く作業)の協力が要請された。住宅地であった荒浜地区は津波で多くのものが流されどこから手を付ければいいのかわからないほどの惨状だった。目を伏せたくなるような光景をたくさん目にしてきた。そうして毎日毎日作業を進め、瓦礫を撤去するにに3年を有した。
そんな経験をしたのち、父親から2代目として会社を託され、現在は自身も息子に会社を託し、代表取締役会長となってその歩みを見守っている。
会長職についてからはそれまで忙しく過ごしてきた佐藤さんにも時間的余裕が生まれた。さまざまな組合の会長職は今も続けてはいるものの、必要な時に出向けばよいので自分の時間が増えたのだ。そこで植物が大好きだという佐藤さんは鶴巣に畑を作り、鶏を飼って世話をしながらそれぞれが成長していく様子を楽しんでいた。そんな時、かつて自分たちが関わった荒浜地区の土地を仙台市が買い上げて、30年間事業者に安く貸すという計画を耳にする。震災の記憶や経験を継承 しながらも多様な目的で持続的 に人が訪れるような事業を行うことが条件で、周辺の豊かな 自然環境と調和した魅力ある土地利用や新たな賑わいの場を創出することを 目的としている。そこに東北黒沢建設工業は手を挙げた。広大な土地を借り受けまず最初にやろうと思ったのは、佐藤さんの好きな畑いじりを活かした貸農園や貸し果樹園だ。植物の成長や収穫の楽しみを体験できる施設である。しかしそれだけでは賑わいに欠けると考え、BBQサイトの整備と初心者でも楽しめるように道具や食材を準備した手ぶらでBBQができる運営方法を計画。さらに海を楽しんだ帰りにでも立ち寄れるカフェを併設する構想も織り込んだ。こうして「Gaden Kitchin 海と風」が誕生したのだ。


3年目となる今年はもっと多くの子どもたちに楽しんでもらえるような、そんな取り組みをしていきたいと考えている佐藤さん。例えば今ある遊具の充実や遊び場の提供、広い敷地を利用した迷路やゴーカートなど、いろいろとアイディアがあるようだ。また大人も楽しめる植物講座のような企画も思い描いており、あまり知られていない植物の言い伝えや知恵など、おもしろい豆知識を発信していきたいと考えている。

自らの手で瓦礫を撤去しそこに新たな息吹を吹き込んだ佐藤さん。その佐藤さんの穏やかな情熱が、この地の未来を今後も暖かく照らしていくのだろう。
佐藤正之(さとう・まさゆき) 東北黒沢建設工業株式会社 代表取締役会長
1952年生まれ 宮城県鹿島台町(現大崎市)出身 東北学院大学卒業
毎晩必ず本を読むという読書家。1晩に2つの本を並行して読むことも。司馬遼太郎の「峠」を愛読。作品に描かれている男の生き方に共感。















