君たちはまだ宇宙人だ
これからどうやって地球人になっていくかその成長が楽しみだ
本誌連載の「いぬねこ歳時記」を担当している獣医師の西原先生を最近毎日のように見かける。といっても画面の中での話だが。SNSを見ていると先生が監修したという口内ケア商品の広告動画がよく流れてくるのだ。またオンライン診療のことや犬や猫の病気のことなど自身のインスタグラムで解説していた動画も目にした。リアルな西原先生はというと、本誌イベントにも参加してもらっているが、動物が関わるイベントでその姿をよくお見かけする。獣医師としての通常業務の他、サプリの監修やSNS、さらにイベントでの健康相談やセミナーなど幅広く活動されている西原先生。今回はそんなフル稼働している西原先生にお話を伺った。

冒頭、出身地を聞いて驚いた。てっきり宮城が地元かと思っていたのだが、大阪生まれで高校を卒業するまでそこに住んでいたと言う。これまでも何度かお話をする機会はあったが一度も関西弁を聞いたことがなかったので大阪出身という事実はとても意外だった。「大学の時は大阪出身なんだから何か面白い事言えよとよく友達に言われました。でも自分は職人肌でコミュニケーションを取るのが下手なので、そういわれた時は本当に困りました」と『大阪人あるある』を教えてくれた。それにしても全く関西弁が出ないのが不思議だったので理由を聞いてみると「大学を出て勤めた所が函館の動物病院だったのですが、関西弁で話すと地元の人たちが心を閉ざすというか、うまくコミュニケーションが取れなかったんですよね。それでなるべく標準語で話すように努めていたら少しずつ心を開いてくれて、何でも話してくれるようになってきたんですよね。だからこの話し方が定着したんです」と教えてくれた。なるほどそういう訳だったのか。
その函館の動物病院で西原先生は師匠となる獣医師と出会う。新人の獣医師たちを宇宙人だと比喩しながら優しくも厳しく指導してくれた先生だ。

「今では考えられないと思いますが『1日24時間、365日俺にくれ』と言われて働いていました。ほぼ毎日帰宅は1時、2時で休みがゼロの月もありました」と当時の事を懐かしむように話してくれた。そこだけ聞くとかなり過酷な現場だったと想像するが、西原先生にとってはとても良い経験の場となっていたようだ。手術が必要な犬猫がくる大きな病院だったため、たくさん執刀する機会もあり、そこにいた3年間の経験が今の自信にもつながっているという。
函館の動物病院ではほぼ仕事漬けの毎日だったが、結婚し子供にも恵まれた。そのタイミングで縁あって宮城に引っ越してくる。しかし当時宮城には難しい病気に対応できる技術や医療設備のある動物病院はなかった。―ここでは自分がやりたい獣医療ができないーそう考えていた西原先生の思いを聞いたとある会社の社長から神奈川県にある自社の動物病院へ来ないかと誘われる。「やりたい獣医療があるのならまずは自分が院長になる必要がある。そして院長としてやっていくには病院を経営するということを身に付けなければならない」そう教えられた。そしてその社長の言葉に導かれ、単身神奈川県に移りプリモ動物病院の院長として働き始めることとなった。この時西原先生に病院経営のノウハウを教えてくれたのは株式会社JPRという会社だ。ペットがより良い医療を当たり前に受けられる環境を作ることを目的とし、動物病院とサロンを経営しながら、獣医師の開業に向けたマネジメントやサポートをしている会社だ。また予防医療にも取り組みサプリメントの開発なども行っている。

縁あってそこで様々なことを学んだ西原先生は東日本大震災の後、家族のいる宮城へ戻ってくる。そして2013年青葉区芋沢にある動物病院を事業譲渡され「森のいぬねこ病院」を開院。
2018年には青葉区川平に「川平ペットケアセンター」を開院し、通常の診療だけではなく、犬や猫が元気で健康な状態を維持できるように病気を予防する「先進予防」にも積極的に取り組んでいる。
自分自身の事をコミュニケーション下手だという西原先生。それでもSNSや、イベントにブースを構え表に立つのは、「先進予防」というものを広く多くの飼い主に知ってもらいたいという強い思いがあるからだ。飼われている動物たちは自分の意志で環境を選べない。飼い主が元気で健康な時はいいのだが、そうでない時はお世話がおざなりになってしまい動物たちに悪い影響を与えてしまう。つまり飼い主の心身の健康がペットの健康を左右しており、飼い主が気づかない日常生活のエラーがペットの病気を引き起こしてしまっている場合もあるのだ。動物病院という所はペットが病気になってから連れて来られるのが一般的で、飼い主の判断次第では手遅れの事も多い。これまでたくさんの動物たちをみて来て思うのは、病気になる前からの普段のケアがいかに大切で、それは飼い主の手に託されているということだ。飼い主自身が健康に過ごし、必要なケアをきちんとすることでペットの健康が長く保たれる。そういったことを伝えることで、病気で苦しむ動物と心を痛める飼い主を少しでも減らしたい。そして自分の動物病院は病気の動物だけではなく、元気な動物も集まり、健やかな日々を見守ることができるそんな空間にしていきたいと考えている。

―――長い時間仕事に携わっていても苦にならない。やりがいのある好きだと思える仕事だから――
様々な方面で活動している西原先生。そんな先生の普段の生活を聞いてみると、昼間は自身の病院で診療し、それ以外の時間は院長として病院の帳簿を確認したり、人事の事を考えたり、SNSで伝えたいことの台本を考えたりと毎日夜中まで仕事をしているということが分かった。帰宅をするのは日付が変わってからの時間だし、それでも朝6時半には起床してまた1日が始まる。今でも忙しい毎日なのだが、がさらに5月にはイオンタウン仙台泉大沢内に診療所を開院する予定だ。また年内には山形市内にも診療所を開院する計画もあるそうだ。
そんなに毎日忙しくしていて辛くはないのかと聞いてみると「正直院長としての仕事は疲れるしストレスにもなっていますが、獣医師としての仕事はとてもやりがいがあります。長い時間働いていても嫌にならないのは、きっと好きなことをやっているからということと、若い時にかなり師匠に鍛えられたおかげかも」と優しい笑顔で答えてくれた。
休みはまとめてとって家族旅行をするという西原先生。「家族サービスですね」という私の言葉に「サービスではなく自分もおもいっきり楽しんでリフレッシュして戻ってきます」と返す先生は思った以上にパワフルでまだまだたくさんの引き出しをもっていそうなとても魅力的な獣医師だった。
(取材:NAOKO)
株式会社きずな縁 代表取締役 森のいぬねこ病院 統括院長 西原克明
1975年生まれ、大阪出身。小学生の時は野球、中学から大学まではバスケ部で活躍していたスポーツマン。帯広畜産大学へ進学し獣医師となり、卒業後は函館、宮城、神奈川の動物病院を経て現在に至る。休日は家族旅行を楽しむ3姉妹の父親。