父親がやっていないことをやるために トリマーの道を選びました
以前お会いした時よりも、なんだかたくましくなったように見えたトリマーの石川蓮さん。全体的にはスマートなままなのだが、なんとなく肩のあたりががっちりとして、頼りがいのありそうな印象に。後でわかった事なのだが、蓮さんはトリマーと言う仕事に必要な体力を身に付けるという目的と、仕事を離れ自身を開放し、リフレッシュするという目的のために、仕事終わりや休日は近くのジムで筋トレをして汗を流すのを日課にしているということだった。なるほど、最初にお会いした時とは実際に体格も違ってきていたというわけか。だが見た目の「たくましさ」だけではなく、蓮さん自身の中身の「たくましさ」が少しにじみ出てきているようにも感じられた。社会人として、またトリマーとして、経験を積みながら何か変化があったのだろうか。あまり多くを語りそうにない蓮さんだが、少しずつ紐解いてみたいと思う。

祖父の代から岩手県一関市でペットショップを営む家の長男として生まれた蓮さん。将来トリマーになると決めたのは、当時家業のペットショップでは生体と関連商品の販売がメインでトリマーが働くペットサロンはまだ手がけていない分野だったからだ。また生まれながらに持つ器用さを活かすことができる職業だということも、その道へ進むことを決めた理由のひとつとなった。
高校卒業後、仙台にある東北愛犬専門学校へ入学。2年間のうち1日だけ休んでしまい皆勤賞は逃してしまったのだと少し悔しそうに教えてくれた。それだけでもかなり凄い事だと思うのだが、蓮さんは実家のある一関市から仙台まで、片道1時間半、往復3時間かけて毎日通っていたと言うのだから、トリマーになるために、かなりの気合いと根性をもっていたことがうかがえる。
学生の頃の蓮さんの事を当時から見ていた東北愛犬専門学校の牧野校長に伺うと「とても意識が高くトリミングに対して意欲的で、控えめながらも芯の強さが感じられました」「向上心の塊でありセンスがあるのに努力を惜しまず、非常に優秀な学生でした」と教えてくれた。元々備わっていた器用さやセンスに胡坐をかくことなく、日々の努力の甲斐あって、2年生の卒業時には、資格試験を兼ねた学内競技会で優勝し、学校代表として全国大会に出場したほどの腕前になっていたそうだ。
卒業後、東京の動物病院でトリマーとして3年間働き、その後戻ってきて実家の会社へ入社。塩竈市のホームセンターSUNDAYの中にある「サンペット塩釜店」に配属になる。トリマーという仕事をしながら、蓮さんは来店する飼い主や同じ職場で働くスタッフとのコミュニケーションの大切さを痛感する。言葉が話せない動物を相手にシャンプーやカットなどの施術をしながらコミュニケーションを取る事よりも、もしかすると人とコミュニケーションをとる事の方が難しいと感じた一瞬があったのかもしれない。


2022年、新たにホームセンターSANDAY卸町店がオープンする。こちらにもトリミングサロンが入ることとなり蓮さんは「サンペット塩釜店」から「Zoomore卸町店」のチーフトリマーとして異動となった。現在はこちらのサロンで働きながら、妹さんに店長を任せ、自身は「サンペット塩釜店」、「Zoomore卸町店」、「サンペット大和吉岡店」の3店舗のトリミングマネージャーとして管理業務も行っている。
またそれらの仕事をする傍ら、母校である東北愛犬専門学校で年に6回ほど講師として、未来のトリマーたちに「ペットショップ学」を教えている。これはペットショップとはどういう所なのかということを、現場の声を交えながら学生たちに伝え、今後自分が進むべき道を広い視野で考えられるようにするための大事な講義となっている。前出の牧野校長によると「在学中から変わらず非常に真面目で、今でも淡々と、そして穏やかに授業をしてくれています。学生たちからも人気があり、とてもモテモテの先生です。卒業後も学校へ出入りしてくれるのが嬉しく教員冥利に尽きます」と高評価だった。

社会人の先輩として相談に乗ってあげられるそんな存在になっていきたい
蓮さんは年に6回というごく限られた授業時間の中で、自分が社会人として学んだことや、コミュニケーションをとることの大切さなどを実体験を基にしながら学生たちに伝えていく。その一方で、自身も学生たちから様々な刺激を受けているそうだ。
また蓮さんは授業をしながら一方的に教えるだけの先生ではなく、常に学生とのコミュニケーションを大切にしている。「学生にとって、僕が一番年の近い先生なので、授業以外でも気軽に何でも相談してほしいと思っています。そしてその子たちが卒業してからも、社会人の先輩として相談に乗ってあげられる存在になりたいですね」そう話してくれた。

「トリマーになるのは殆どが女性で体力的にもきついし、お給料も高いとは言えません。だから結婚や出産を機に辞めてしまう人が多いのが現状です。夢をもってトリマーになった後輩たちが潰されてしまわないように、今後は職場環境の改善やトリマーの地位向上などに取り組んでいきたいと考えています。そのためには自分も現場に出て、もっと人とのコミュニケーション能力を高め視野を広めていくことも大切だと思っています」と静かに思いを話してくれた。
トリマーであり、管理者であり、講師でもある蓮さんは、家業のペットショップの事だけではなく業界全体の底上げまでも考えているようだ。 これから様々な経験を積みながらさらに成長していく蓮さんの今後の活躍が楽しみだ。
(取材:NAOKO)
株式会社リトルウィング トリミングマネージャー石川 蓮
1997年生まれ 岩手県一関市出身
幼稚園から中学校までサッカー少年だったが、高校ではその叩く姿のかっこよさに憧れて和太鼓部へ入部。卒業後は専門学校へ進みトリマーの道へ。趣味は大好きなコーヒーを飲みながらのカフェ巡り。また仕事終わりや休日などはジムでの筋トレも欠かせない。
