虹の橋に近い、この丘で
大切ないのちを静かに見送るとき
やさしい「あかり」が心に灯る
美しい田園風景と山々が広がる蔵王町小村崎。澄んだ空気と開放的な空のもと、案内看板に沿って小道を上っていく。森閑とした杉林の砂利道をゆっくりと通り抜けると、青空の下に小高い丘が広がる。緩やかなカーブの先には、雑木林に囲まれた北欧風の建物「あかりテラス」が見えてくる。車を降りた瞬間、吹き抜ける風が心地よく、2匹のヤギ「あかりちゃん」と「テラスくん」が静かに迎えるように佇んでいる。

木の温もりが伝わる建物へ足を踏み入れると、「あかりテラス」代表取締役社長の飯塚康司氏が穏やかな笑顔で迎えてくれた。北欧を思わせる建物とこの自然豊かな地。土地の開拓から建物の設計・施工、ライフラインまで、すべてスタッフと共に飯塚氏自身が手がけたものだというから驚かされる。


「あかりテラス」は、スタッフの佐藤氏が名付け「暖かい光が人の心を包み込む、開かれた景色が見える丘、明るいテラス」という思いが込められている。この地は、イギリスの田舎を参考にし、実際に訪れた朝もやの景色にイメージを重ね、スタッフと共に形にしていった。 もともと仙台を拠点にしていた飯塚氏。なぜこの地に「あかりテラス」を創ろうと考えたのだろうか。

「私はこれまで、商業施設を中心に人を呼び込む空間づくりをしてきました。人が集い、“来てよかった”と思ってもらえる場所をつくる仕事です」全国39都道府県で2000店舗を超える商業施設を手掛けてきた飯塚氏。人を惹きつけるような賑わいのきっかけとなる、オブジェや内装などを創造するのが好きで、それを生きがいに仕事をしてきた。全国各地を飛び回る多忙な毎日の中で、ある思いが芽生えていった。
「出張が続くと、人に“酔う”ような疲れがあるんです。だから、事務所は街中ではなく、少し離れた自然豊かな場所がいいと思ったんです」
仙台から20km圏内を車で巡って探す中、運命のように出会ったのが、蔵王のこの地だった。飯塚氏が38歳のときのことだ。木々が生い茂る山林で、道も獣道のような状態。それでも、この景色を見た瞬間、「ここだ」と直感した。


「何年もかけて木を伐採し、水道や電気を引き、少しずつ整えてきました。共鳴した実兄とともに重機の免許を取得し、自ら土地を整備しました。 “どの木を切り、どれを残すのか。壊すのではなく、どう活かすのか”を考え、景観もそのまま残しています」
そんな最中に東日本大震災が発生した。飯塚氏は、国から仰せつかり「復興支援アドバイザー」として、岩手県、宮城県、福島県の被災地を巡った。深い疲れや寂しさを抱える人々の姿に触れる中で、その背景にペットの存在があることを知った。
「ペットを失った家族。助けようとして命を落とした方。避難する中で離れ離れになった方がほとんどでした。人ですら大変な状況で、手が回らない現実がありました。さらに身近で、ペットを失ったスタッフが深い悲しみに沈み、ペットロスで性格まで変わってしまうことに気づかされました」と、飯塚氏。その経験が、ある決断へと繋がる。

「もともと『アーティスティック村』を作りたい、アートを中心とした工房を作りたいという構想を描いていた。その過程で“何かしなきゃいけない”という使命感を感じました。“これは放っておけない”その想いが“ここで何ができるか”という問いへと変わっていったんです。この美しい自然の中で、生き物は自然へ還るのが一番なのではないか—そう思ったんです」
こうして「あかりテラス」でのペット火葬が始まった。形式的な儀式を押し付けることはせず、悲しみの中にいる人に、無理に言葉を掛けることもしない。ただ静かに話を聞く。自然の中で過ごす時間が、訪れた人の心を少しずつ整えていく。

「本当に大切なのは、“寄り添うこと”です。訪れた人は、時間とともに表情がやわらかくなり、最後には“ありがとう”と言って帰っていくんです。これは、自然の力が人の心を整えているのだと実感しています。命を授かったペットや私達は自然の下で自然に還る事が、魂を浄化させる命の法則に思えるのです」
テラスデッキから見える広大な景色は空が近く、まるで「虹の橋に近い場所」のようだ。大切な存在を見送る間、この田園風景を眺めていると、心がほどけ、やがて感謝へと変わっていく。一緒に過ごした時間、やさしいぬくもり、温かなまなざし…。虹の橋に近いこの場所で、記憶がよみがえり、心を癒していく。
足元にやわらかな温もりを感じて見下ろすと、看板猫の「トラ」と「クロ」が、そっと寄り添うように近づいてくる。そのしぐさに「癒された」という声も多い。
「人の悩みって、本当はその人の中に答えがあります。だからこそ、気づける“場”をつくりたいんです」。誰しも悲しみに暮れている時、心も重く、すべてが色褪せて見える。あの時、もっとこうしていれば、と後悔がよぎることもある。だからこそ、と飯塚氏は語る。
「暗く閉ざされた場所ではなく、陽の光に包まれた中で見送りたいんです。明るくて柔らかい場所、それが自然に還す入り口、樹木葬です」


広大な景色と空の広さ、風の音、木々の揺れ。季節の移ろいの中で芽吹く命と、そっと寄り添う動物たちの気配。それらすべてが、この場所のもつ静かな力を物語っている。蔵王の自然に抱かれたこの丘で大切な家族を見送る時間は、深い悲しみの中にあっても、やがて心をやさしくほどき、そっと “あかり“をともしてくれる。自然そのものが、心を静かに癒す場所なのかもしれない。
「あかりテラス」株式会社アーティスティック集団
代表取締役社長 飯塚 康司(いいづか・やすし)
1953年生まれ。栗原郡瀬峰町(現:栗原市)出身。仙台デザイン専門学院卒業後、28歳でインテリアデザイナーとして独立。商業施設の企画・設計・施工に携わる。マイスター商業施設士。ガーデニングコーディネーター。
「よりよい空間創り」を理念に、ペット火葬・葬儀・霊園も運営にも取り組む。
実績:宮城県内お茶の井ヶ田、秋保ヴィレッジ他。全国2,000店超の商業施設設計デザイン、オブジェ製作作家、知育玩具開発
著書:『商業施設士が見た東日本大震災』(幻冬舎)















